鵠沼ビニトップ物語
海から自転車で戻って来た俺は、まず物置にサーフボードを仕舞い、シャワーを浴びてから、素肌にアロハを引っ掛け、庭に置いたリクライニングチェアーに横になった。
鵠沼海岸からの潮風を浴びながら、ハワイの地ビール「コナビール」を味わう幸福な時間…。
つまみは、以前、マウイ島で、食べて感激し、見よう見まねで作ってみた「アヒ ポキ」。
生の鮪を、玉葱、薬味葱、塩、胡椒等で味漬けした、シンプルな料理である。
だが、これが実にビールに合うのだ!自宅に植えた椰子の木が、小さな庭に濃い影を作り始める。
キッチンで妻が茹でるロブスターが、野趣溢れる香りを運んで来る。
サーフィンが趣味の為、自転車で10分位で、海に行ける場所に買った一軒屋。
塩害で、自転車のホイルは錆びてしまったが、ガルバリウム鋼鈑を使っている「ビニトップ物置」には、全く錆が浮かんでいない。
そろそろ丁度良い具合に酔いが回って来た様だ。
なんだか、無性に歌いたくなって来た。
俺は、再び気持ち良い程滑りの良い物置の扉を開け、無造作に仕舞ってある、俺のサーフボードや、息子のスタンドアップパドルサーフボード、妻のクリアカヤック等の奥から、やっとウクレレケースを引っ張り出した。
それにしても、なんてたくさんの荷物を収納出来る素晴らしい物置だろう…。ウクレレを爪弾きながら、「Kaimana Hira」を口づさむと、心は、時空を飛び越えて、カラフルな熱帯魚達が、足元で群れていた、あのオアフ島のハナウマ湾へと旅立って行く。
気が付くと、妻が曲に合せて、フラを舞っていた…。
俺は2曲目の「Ka Nohona Pili Kai」(原曲は「涙そうそう」)を歌い出した。
この幸せな時間がいつまでも続くことを願いながら…。
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